新規事業の担当者が経営層や上長から最も頻繁に受ける質問がある。「で、売れるの?」だ。
この質問に「売れます」と答えれば根拠を求められ、「まだわかりません」と答えれば不安を与える。実はこの問い自体が、新規事業の検証において適切な問いではない。本記事では、「で、売れるの?」に対して担当者がどう報告すべきか、その設計方法を整理する。
「売れるか?」はYes/Noで答えられない
「売れるかどうか」をYes/Noで答えるには、すべての検証が完了し、確定的な結論が出ている必要がある。しかしPOCフェーズではそもそも「確かめている最中」であり、確定的な結論はまだ存在しない。
ここで「売れると思います」と答えるのは、意見を述べているに過ぎない。仮定の質問に「はい」と答えるのと同じ構造で、検証に基づいた回答ではない。
かといって「まだわかりません」では、経営層は投資判断ができない。追加予算を承認すべきか、撤退すべきか、方向転換すべきか。担当者からの情報がなければ、経営層も判断のしようがない。
「売れるか」ではなく「何がどこまでわかったか」で答える
「で、売れるの?」に対する正しい回答は、Yes/Noではなく「検証の現在地の報告」だ。
「売れるかどうかを確かめるために、3つのステップで検証しています。現在、Step 1の課題検証が完了し、15社中12社で課題の実在が確認できました。次はStep 2として解決策の受容性を確かめます」
この回答は「売れます」とも「売れません」とも言っていない。しかし経営層にとっては、はるかに判断しやすい。なぜなら、検証が計画的に進んでいること、現時点のファクト、次のアクションが明示されているからだ。
報告の3つの要素
「で、売れるの?」に答えるための報告には、3つの要素を含める。
要素①:検証の全体像と現在地
検証を段階的に設計している場合、全体の中で今どこにいるかを最初に示す。「全3ステップのうちStep 1が完了。Step 2に入ったところです」──この一言で、経営層は「まだ途中なのだな」「着実に進んでいるのだな」と理解できる。
全体像がないまま個別のデータを報告すると、経営層は文脈なしに数字を聞くことになり「だから結局売れるの?」と繰り返すことになる。
要素②:確認できたファクトと未確認の論点
現時点で確認できた行動事実を簡潔に報告する。同時に、まだ確認できていない論点も明示する。
「課題の実在は確認できた。まだ確認できていないのは、解決策の受容性と対価の意思」──この報告であれば、経営層は「あと2つのステップを経れば判断材料が揃う」と理解できる。
確認済みの事実だけを報告すると楽観的に聞こえ、未確認の論点だけを挙げると悲観的に聞こえる。両方をセットで報告することで、バランスの取れた判断材料になる。
要素③:次のアクションと判断時期
「次に何をするか」「いつ判断できるか」を明示する。経営会議で機能する報告の条件として最も重要なのが、この要素だ。
「来月末までにStep 2の検証を完了し、次回の経営会議で解決策の受容性について報告します。その結果をもって前進かピボットかの判断を仰ぎます」──このように期限と判断時期を明示すれば、「もう少し様子を見よう」という曖昧な結論を避けられる。
「売れるの?」を聞かれなくなる状態を作る
理想は、経営層から「売れるの?」と聞かれなくなることだ。
定期報告の中で「検証の進捗」「確認済みファクト」「次のアクション」が毎回提示されていれば、経営層は自分で状況を把握できる。「売れるの?」という質問は、情報が不足している時に出る質問だからだ。
情報が十分に提供されていれば、経営層の質問は「Step 2の基準はこれで妥当か?」「ピボットする場合の候補は検討しているか?」といった、より具体的な議論に変わる。この状態になれば、POCは経営判断の俎上に正しくのっている。
報告の質を上げることは、担当者の負担を増やすことではない。むしろ曖昧な報告を繰り返して「で、売れるの?」と何度も聞かれることの方が、はるかに負担が大きい。
まとめ
- 「で、売れるの?」にYes/Noで答えてはいけない──POCフェーズでは確定的な結論はまだ存在しない
- 検証の現在地・確認済みファクト・次のアクションの3要素で報告する──経営層が自分で判断できる情報を提供する
- 報告の質を上げれば「売れるの?」を聞かれなくなる──情報が十分なら経営層の質問はより具体的になる
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