新規事業のPOCフェーズで、社内の営業部門に協力を依頼する。ごく自然な判断に見える。しかし、これがうまくいくケースは極めて少ない。

原因は営業担当者のやる気や能力ではない。既存事業の営業とPOCの営業では、求められる動き方が構造的に異なる。本記事では、なぜ既存営業部門にPOCを任せると成果が出にくいのか、その構造を整理する。

既存営業とPOC営業は「別の仕事」である

まず前提として、既存事業の営業とPOCの営業は、同じ「営業」という名前がついているだけで、中身はほぼ別の仕事だ。

既存営業の仕事

既存事業の営業担当者は、すでに市場で受け入れられているプロダクトを売っている。顧客のニーズは概ね明らかであり、競合との比較軸も定まっている。営業プロセスには型があり、トークスクリプトも整備されている。成果は受注金額や受注件数で測定される。

つまり、「何を、誰に、どう売るか」が明確な環境で動いている。

POC営業の仕事

POCの営業では、そのすべてが不確定だ。プロダクトが市場に受け入れられるかどうかすらわからない。顧客の課題が本当に存在するのかを確かめるところから始まる。競合との比較軸も定まっていない。営業の型は存在せず、自ら作る必要がある。

成果の定義すら異なる。POCでは、受注だけが成果ではない。「この方向では売れない」という事実を構造的に明らかにすることも、重要な成果だ。

この違いを理解しないまま既存営業にPOCを任せると、起こるべくして問題が起きる。

3つの構造的なミスマッチ

ミスマッチ①|成果指標が合わない

既存営業の担当者は、受注件数や売上金額で評価されている。上期・下期の目標があり、達成率が賞与や評価に直結する。

この環境にいる人間に「まだ売れるかわからないプロダクトを、検証目的で提案してほしい」と依頼するとどうなるか。当然、確実に売れる既存商材の営業が優先される。POCの商談は「時間があるときに」「余裕ができたら」と後回しにされる。

これは意欲の問題ではなく、評価制度の問題だ。既存の成果指標のままPOCを依頼すれば、構造的に後回しにされる。

ミスマッチ②|営業の進め方が合わない

既存営業の担当者は、「売る」ことに最適化された動き方をしている。プロダクトの特長を説明し、競合との優位性を伝え、価格を提示し、クロージングに持ち込む。このプロセスは、市場が確立しているプロダクトには有効だ。

しかしPOCの営業では、このプロセスが逆効果になることがある。

まだ市場に受け入れられるかわからないプロダクトを「売り込む」と、顧客は社交辞令で「いいですね」と返す。営業担当者はそれを手応えとして社内に報告する。しかし実際には検証が一歩も進んでいない。

POCの営業に必要なのは、売り込みではなく、顧客の行動事実を引き出す質問だ。「この課題に対して、現在どのような対処をしていますか」「そのためにどの程度のコストをかけていますか」。こうした質問で仮説を検証していくプロセスは、既存営業の動き方とは根本的に異なる。

ミスマッチ③|フィードバックの設計が合わない

既存営業では、失注したら次の案件に移る。失注理由を振り返ることはあっても、それをプロダクト改善に体系的にフィードバックする仕組みは通常ない。

POCの営業では、売れなかった理由こそが最も重要な情報だ。顧客の課題認識がズレていたのか、解決策の方向性が違ったのか、価格が合わなかったのか。これらを構造化してプロダクトチームや経営層に持ち帰ることが、POC営業の本質的な役割だ。

既存営業の担当者にこの動きを期待するのは、トレーニングを受けていない業務を依頼するのと同じだ。やり方を知らないのだから、できなくて当然だ。

「動いてくれない」のではなく「動けない」

新規事業の担当者から「営業部門が協力的でない」という不満を聞くことがある。しかしこれは、営業部門の態度の問題ではなく、構造の問題だ。

評価制度が既存商材の受注に紐づいている。営業プロセスが確立商材向けに最適化されている。フィードバックの仕組みがPOC向けに設計されていない。この3つが揃った状態で「POCもやってほしい」と言われても、物理的に動けない。

この構造を認識せずに「もっと積極的に動いてほしい」と依頼しても、状況は改善しない。

ではどうすべきか

既存営業部門にPOCを兼務させるのではなく、POC営業を独立した機能として設計する必要がある。

具体的には以下の3点が起点になる。

まず、POC営業の成果指標を既存営業とは別に定義する。受注件数ではなく「検証完了数」「仮説の棄却・採択数」「構造化されたフィードバックの質」を成果とする。

次に、POCに適した営業プロセスを設計する。売り込みではなく、仮説を立て、行動事実を集め、結果を構造化するプロセスだ。既存営業の型とは別物として設計する。

最後に、POC営業の結果をプロダクトや事業戦略にフィードバックする仕組みを作る。定例報告で検証ファクトを共有し、事業の方向性を判断するための材料として機能させる。

これらの設計ができていれば、内製であっても外部人材の活用であっても、POC営業は機能する。逆にこの設計がないまま人を配置しても、同じ問題が繰り返される。

まとめ

  • **既存営業とPOC営業は「別の仕事」**──同じ「営業」という名前に惑わされない
  • 動いてくれないのではなく、構造的に動けない──評価制度・プロセス・フィードバック設計がPOC向けになっていない
  • POC営業を独立した機能として設計する──成果指標・プロセス・報告の仕組みを既存とは別に構築する

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