技術やプロダクトには自信がある。しかし顧客に提案してみると、反応が鈍い。手応えがないまま時間だけが過ぎていく。
この状態に心当たりがあるなら、原因は営業スキルではなく「営業フェーズにおける検証の設計」が不在であることにある可能性が高い。本記事では、技術者が新規事業を立ち上げた際に営業フェーズでぶつかる3つの壁と、その構造的な原因を整理する。
壁①|「いいですね」の先に進まない
技術者がプロダクトを説明すると、顧客から「面白いですね」「ニーズはあると思います」といった反応が返ってくることは多い。問題は、そこから具体的な検討に進まないことだ。
この壁の正体は、顧客の「意見」と「行動ベースの事実情報」を区別できていないことにある。
「いいですね」は、その場の印象に過ぎない。将来の行動を約束するものではなく、事業判断の根拠にはならない。一方で、「この問題を解決するために、過去に予算を使ったことがある」「専任担当者を置いて対応している」といった事実は、その課題が実在し、対価を払う動機がある証拠になる。
検証の精度を上げるには、質問を変える必要がある。
有効な質問は「直近でその問題が発生したのはいつですか?」「その時、どう対処しましたか?」のように、過去の行動事実を引き出すものだ。逆に「こんな機能があれば使いますか?」は、相手に想像を求める質問であり、どれだけ好意的な回答が返ってきても検証にはならない。
技術者が商談で陥りがちなのは、プロダクトの特長を説明し、相手のリアクションを確認するという流れだ。これは「発表と感想」であり、「検証」ではない。
壁②|売れない原因の切り分けができない
商談が不調に終わったとき、「営業のやり方が悪かったのか」「プロダクトが市場に合っていないのか」の切り分けができない。これは、新規事業の営業で最も深刻な問題の一つだ。
原因は、複数の検証ポイントを同時に走らせていることにある。
新規事業の営業では、少なくとも以下の要素が同時に存在する。
- 顧客の課題は本当に存在するか
- その課題に対する解決策は適切か
- 解決策に対して対価を払う意思はあるか
- 競合や代替手段と比べて選ばれるか
これらを一度に検証しようとすると、商談がうまくいかなかった場合に「何が原因だったのか」が特定できない。結果として「もう少しやってみよう」「アプローチを変えてみよう」という曖昧な判断が繰り返され、前にも後ろにも進めない状態が続く。
対処の原則は、検証ポイントを段階的に分解し、一つずつ確かめることだ。
まず「課題は本当に存在するか」だけを検証する。課題の実在が確認できたら、次に「この解決策は受け入れられるか」を確かめる。さらに「対価を払う意思があるか」を別の検証として設計する。
この順序を守れば、どの段階で壁があるのかが明確になる。技術開発における仮説検証と同じ考え方を、営業フェーズにも適用するということだ。
壁③|商談の結果が「売れた/売れなかった」で終わる
技術者が自ら営業するケースでは、商談の結果が「受注」か「失注」の二択で記録されることが多い。しかし新規事業のPOC段階において、この二択は意味のある分類ではない。
本当に必要なのは「なぜ響かなかったのか」を構造化して記録することだ。
たとえば失注した商談について、以下のような分解ができているだろうか。
- 顧客はそもそも課題を認識していたか
- 課題は認識していたが、解決策の方向性がズレていたか
- 解決策は受容されたが、価格が合わなかったか
- 価格も合っていたが、社内決裁のプロセスで止まったか
この分解ができれば、プロダクトや営業戦略へのフィードバックが構造化される。「売れなかった」という事実が、次のアクションにつながる情報に変わる。
逆にこの構造化がないまま営業を続けると、同じ壁に何度もぶつかることになる。プロダクトを改善すべきなのか、ターゲットを変えるべきなのか、営業の進め方を変えるべきなのかの判断がつかないまま、時間とコストが消耗される。
3つの壁に共通する構造
これらの壁は、営業スキルの不足ではなく「検証の設計」が不在であることから生まれている。
技術者はプロダクト開発において、仮説を立て→実装し→テストし→結果を分析するプロセスを自然に実行している。しかし営業フェーズになると、同じ思考法が適用されず、「とりあえず売ってみる」になってしまうことが多い。
営業にも、技術開発と同じように仮説を立て、行動ベースの事実情報で検証し、結果を構造化して次の判断につなげるプロセスが必要だ。このアプローチは仮説検証型セールスと呼ばれ、POCフェーズの営業において再現性のある成果を出すための基盤となる。
まとめ
- 意見ではなく行動ベースの事実情報を集める──「いいですね」は検証にならない
- 検証ポイントを段階的に分解する──複合要因のまま走らせると原因が特定できない
- 売れなかった理由を構造化する──「失注」で終わらせず、次のアクションにつなげる
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